特殊地帯・シリコンバレー (前編)

seihiguchi2005-08-02


シリコンバレーと聞くと「ハイテク産業とITの聖地」として, 近未来風のとてつもない大都会を想像してしまうかもしれませんが, 実際は拍子抜けしてしまうほどの"超ど田舎"であることに驚くでしょう。ちょっと小高いビルや丘からシリコンバレーを眺めてみると, 青々とした森林と枯草で覆われた山々が見えるだけで都会の風景とは程遠いです。以下, 実例をあげながらシリコンバレーの田舎ぶりを紹介していきます。

自然が豊かなシリコンバレー

シリコンバレーの一つの定義としては以下のようなものがあります(抜粋)。

"Located on the San Francisco, California, peninsula, radiates outward from Stanford University. It is outlined by the San Francisco Bay on the east, the Santa Cruz Mountains on the west, and the Coast Range to the southeast."

(サンフランシスコ湾と西に位置するサンタクルズ山脈, 南東のコースト山脈に囲まれ, スタンフォード大学を中心とした地域)

出典: "The history of Silicon Valley" (http://www.websofinnovation.com/svhistory.htm) Alexander Laudon

シリコンバレーと呼ばれるからには, チップ工場や近代的なオフィスビルが山々で囲まれた谷間に立ち並んでいると思うかもしれないでしょう。確かに上の定義にもあるように, 広く見ると周囲を山々で囲まれてはいるのですが, 山と山の離れている距離が日本人的な感覚では遠く, 「シリコン畑(チップ工場)」 が立ち並ぶ「バレー(日本人のイメージでは盆地が近いかもしれない)」とはギャップがあります。むしろシリコンプレイン(Sillicon Plain)と呼ぶ方が合っているかもしれません。サンフランシスコの北東にあるワイナリーで有名な「ナパバレー」のほうがよほど谷間のイメージに近いでしょう。


基本的に見えるのは, 場所にもよりますが, 森と山(およびサンフランシスコ湾)ですね。とくに昼間は雲一つない快晴であることがほとんどなので, 青い空に地上の緑が映えます。


加えてここの気候はよく知られているように, 湿度が低くて夏でもさほど気温が高くなくとても過ごしやすいです(下図: 数字は華氏)。典型的な地中海性気候です。寝苦しくて寝られないということは1年を通じて7日程度(ニュースレター編集会議に参加したメンバ-の経験上)。また11月から2月にかけて雨季になります。そのころは連日雨が降るか曇っていることが多くなり, いわゆるカリフォルニア的な気候からは遠ざかりますが, 晴れていれば1年で一番景色が美しい時期でしょう。なぜなら, 冬に雨が降るおかげで夏は枯草ばかりの山々が緑であふれかえります。景色を堪能するならがお薦め.


建物についてはは平屋が多く, 高くても2,3階建てというのが少なくないです。会社が入っているビルはそれなりに高さがあるのではありますが, 東京タワーを根本から見上げるような状況は皆無といってよいでしょう。また, それら建物は上の写真にあるような森林地帯にぽつりぽつりと点在しているため, この地帯での移動は車が必須となります。それも, 高速道路を使わない移動は珍しいというくらい高速道路は一般道路のごとく利用します。なんてったってFreewayですから使わなや損々.

野性動物の巣窟

実際に生活してみると植物だけでなく, シリコンバレーには動物も数多く生息していることに驚きます。日本では普段見掛けない動物が多く, 特にリスなどの愛らしい姿には感激するのではないでしょうか(しばらく生活すると日本で雀や鳩を見るように, 特別になんとも思わなくなるのでありますが)。


また, スタンフォード大学の裏山(通称 The Dish)には牛の群れやMountain Lion と呼ばれる獰猛な野獣がいるし(人を襲うこともある), XeroxのPalo Alto研究所のすぐそばには牧場があり, 道路標識には「鹿を跳ねないように注意しましょう」という看板まで立てられています。実際に鹿が道路を悠々と横断している場面に遭遇することもあるし, リスなどの小動物が不幸にも車に引かれてしまうことは日常茶飯事です。

買物事情

主な食料品店は午後10時, レストランにしても午後10-11時には店を閉めてしまいます。中には例外としてSafewayのような24時間営業の店もありますが, 日本のように家から歩いて(しかもパジャマ+サンダルで)10秒行けるコンビニエンスストアのような便利なものはなく, 基本的に車で出かけて往復30分はかかるのが普通です(自転車で行ける範囲にあることもありますが)。結局のところ, 仕事が遅くなって帰りに食料品の買物をしようと思っても Safewayしか開いていないということや, 作る手間を惜しんで外食で済ませようとしても深夜まで営業してるハンバーガーショップなどへ行くという羽目になってしまいます。

比較的遅くまで開いている店の例


多民族国家であるアメリカの特色を反映して, 千差万別, 様々な国の食料品店があり食材のバラエティはむしろ日本よりも豊かです。しかし, すべてのものが1ヶ所で手に入ることは不可能ですので, いろいろと欲しいものを探し求めて行くと必然的に時間がかかってしまいます。例として, 私のある日曜日の買い物を挙げてみます。

  1. 生鮮食品(肉と魚類)を中華マーケット(Marina Market)で買い
  2. 日本の食材(乾物類, 納豆, 醤油など)を日本マーケット(Mitsuwa)でそろえ
  3. キムチと炒め物用の薄切り肉を韓国マーケット(Hankook Market)で買い
  4. 牛乳とシリアル、果物をSafewayで買う


各々の店の移動に高速を使って平均15〜30分はかかり、総して3時間程度はかかります。走行距離にしたら(Palo Altoから出発して)40〜50マイル(1マイルはおよそ1.6km)は走っていますね。 4箇所も「はしご」をして買物をすることは毎回のことではありませんが, 1件の店で買物をするにしても30分〜1時間はかかってしまいます。


余談ながら, 自分で調理するのが好きな人にとっては逆に「すばらしい環境」と言えます。おしなべて食材の価格は日本の場合と比べて安いので, やりくり次第ではエンゲル係数を20〜30パーセント程度は下げることができる可能性があります。もしこれから渡米される予定がある方は英語に加えて, 料理も練習しておくと有意義な食生活が送られるでしょう。


(後編へ続く)

この文章はJTPAのwebサイトに掲載されたニュースレターの記事を許可を頂いて編集・転載しました.