学校事情(28): LISA, Laser Interferomiter Space Antennaについて


LISA (Laser Interferometer Space Antenna)というのは, NASAESAが中心となって推進しているプロジェクトの名称. 有人宇宙開発というよりも、無人のスペース・クラフトを使うもので、Space Science Missionとして分類され, 天文学、宇宙物理学的な分野のプロジェクトです. 情報産業やバイオの波にもまれながら、それらの片隅で(古典的な?)物理学の分野ではどんなことが研究されているかを、何回かにわけて紹介してみようと思います.


LISAのミッションは重力波 (gravitational waves) という、宇宙を漂う波の一種を直接的に検出することであります. 重力波は, アインシュタイン一般相対性理論によって予言されている現象の一つ. 重力波の存在は、中性子連星のふるまいを観察することによって、「間接的に」証明はされていますが、直接の検出に成功した事例はまだありません (間接的な証明をした学者らは1990年前半くらいにノーベル賞を受賞していたような...).


太陽のような質量の大きな天体(もしくはその1000倍, 10,000倍を超える恒星) のまわりには、非常に強い重力が作用し、その天体に何かの衝撃が加えられると重力波が発生する. 質量の大きな物体が振動すると、それが宇宙空間を伝搬してゆくということです. 超新星の爆発や、大きなブラックホールどうし, 銀河どうしの衝突など、強い重力をもつ天体の運動によって、さまざまな規模(波長、周波数)の重力波が宇宙空間へ放出されているとされています.


重力場が存在すると、それによって時空はゆがみ、結果として光は曲がります (光は必ずしも直進しない). それゆえに、レーザー(光の一種)を用いれば、重力波が流れてきたときにレーザーの曲り具合を「正確に」測ることで直接の検出が可能となりそうです. この「正確に」というのが、とてつもない正確さが要求されていて, 検出対象となる重力波の周波数によりますが、10^{-23}のひずみ(代表長さに対する変位) を測ることが必要です. そうすると普段、生活で気にしないようなレベルのノイズ、外乱を除去できる仕組が不可欠になります. スペース・クラフトの姿勢制御や軌道制御のノイズ, 宇宙線の放射により電荷が溜ることにより発生する静電気力, スペースクラフトに搭載されたコンピュータの発熱や太陽からの放射熱, スペースクラフト内の残留圧力などなど, レーザー干渉計の計測を邪魔する要因は多々あります.「そんなん小さいもの、どーでもええやん」といいたくなるような物理量を超高精度で制御できるシステムを日夜世界中の研究者たちが研究しています.


従来、天体観測をするというときは、恒星や銀河などから発せられた電磁波や可視光を観測することによって研究してきました. が、ブラックホールダークマターなどというのはそのような電磁波の放射を行わない謎に満ちた天体が宇宙、この世には多々存在しているとされています. 重力波を観測することは、ブラックホールなどの活動を追跡したり、果ては宇宙の誕生、時間の起源・終焉を知る重要な手かがりとなるといわれています.


自分が居座っている Hansen Experimental Physics Laboratory (HEPL, http://hepl.stanford.edu/) でもLISAに取り組んでいます. なぜかしら昨年から研究費を0までカットされて資金繰りがかなり怪しいです. 研究成果が出ているにも関わらず. この続きはいずれ.