橋本龍太郎氏講演

seihiguchi2006-01-26


橋本龍太郎元首相がStanfordへ来校され、盛大に講演を行った。首相在任中に、当時のアメリカの国防長官(Secretary of Defense) であったWilliam Perry氏( http://en.wikipedia.org/wiki/William_Perry )を始めとする推定で200人ほどの聴衆が集まっていた。参加者の内、30−40%はアメリカ、東アジア諸国など非日本出身であったであろう。日本という国に対する国際社会の関心の高さがうかがえる。

講演に対する率直な感想としては、「よくも悪くも、自分の想像上に描かれた日本の政治姿勢」を表現していたと思う。そして、「期待通りの内容」だ(これは正直にははずれてほしかったのだが)。


「自分の想像上に描かれた日本の政治姿勢」というのは、どういうものかというと、

  • 国内での派閥闘争、権力/個人的利権争いにばかり終始して、
  • 国際社会の動きにはあまり積極的に関心をもたず、行き当たりばったりの対応で、
  • 外からみて、一体何を欲しているのか、しようとしているのか、全く見当がつかない(ビジョンがない)
  • ついでに、お金を出して偉そうにしているだけ

という姿勢。言い方は悪いのは承知の上だが、「ただの金持ち」なのだ。


Stanford Universityという国際人の集まる場で講演をされたわけである。そして数多くの有力な外国人(という言い方は適切でないかもしれないが)も駆けつけてくれたのだ。個人的な希望としては、国際社会における日本の印象を少しでも改善するべく、「今後3年, 10年, 20年の日本のビジョン」というと大げさかもしれないのだが、「日本は今後、国際社会に対してこのような貢献をしていくことができるであろう」などと、将来のビジョンをアピールできるのに格好な場だったのではないだろうか。

講演は、どこからスタートしたかというと、「1955年に結成された自由民主党が昨年で結党50周年を迎え、その間に自由民主党、単独では政権を維持できない状況になりました。誠に残念です。」と。権力争い、派閥闘争の内部事情から話を切り出して、結局最後まで内政事情の歴史的経緯を解説することで時間が過ぎてしまったのだ。そんな歴史の講義だったら、GOOGLEや図書館の資料でまかなえるんですけどねぇ...


もっと日本の「外」と「未来」に対するビジョンを語って欲しかった。「内」と「過去」(=不毛な過去の内部事情)ではなくして。彼は元首相でもあるのだから、ある意味で今日は国を代表してスピーチをしたのだから、そういう思考はしないのだろうか。「歴史」を理解することは大切である。そしてその歴史(事実、情報)と現代の活きた情報や考察(インテリジェンス)を融合させて、そこから未来の見解を示し、リーダーシップを発揮していくのが政治家の一つの仕事なのではないか?

個人的に今の首相は、諸外国に対して明確な国のビジョンを(公に)明らかにしているとは思えない。郵政や年金は、とても重要で早急に対応しなければならない問題である。だが、国連の常任理事国加盟(希望)という、ちょっと的を得ないことをしようとしている政府に代わって喝を入れることも(問題にならない範囲で)できただろう。


興味深いことに、隣にいた友人は「いや、すばらしかったよー」と言う。なぜなら、「数々の微妙な国際問題について質問を受けても、真っ正面から堂々と答えていたじゃないかー」と。確かに馴染みの間のおしゃべりじゃないから、軽々しく国家間の問題についてべらべらしゃべるのは難しいし、些細な一言が政治経済に影響を与えるのは理解できる。けどねぇ...., 質問の答えをはぐらかして、ごまかしているだけなのでは....?

確かに、自分の思考、精神年齢はnaiveだなと自覚することは少なくない。だから、今日の講演に対する素直な感想(ここで書き綴っていること)に同意する人は多くはないかもしれないが、私は問題視する。


橋本氏のスピーチが終わったあとは、具体的な国際問題に対する質問が浴びせられた。例えば、

  1. 日中両国の首脳レベルでの交流が途絶えたままなのだが、これは今後どう改善するのか?
  2. 世界平和を築くために、日本は今のままの外交姿勢でよいのか?
  3. 中国、日本両国の間で過去の歴史に対して誤った教育がなされていると思うのだが、両国の友好関係をよくするためにも、これは見直し改善しなければならない問題である。これについてはどうお考えなのか?

など。

具体的な答えについては失念してしまったのだが(メモるべきだったな)、3番目の歴史教育については、「日中の若者たちの間で協力して、中国緑化活動に取り組んでいるみたいです(以上)」と。

はぁ〜?

中国から遥々アメリカまで学びに来ている優秀な志高い学生が、国の元代表に率直な意見を求めているのである。一市民が、外国の首相に直に質問をできるチャンスなど、そう滅多にないはずだ。なぜ、「自分の意見はこうだ」と言ってあげられないのか。やっぱ考えていないんだな。(もし、自分が同じことを聞かれたならば.......どうしようと脳内仮想実験をしてみて、答えに窮してしまったので同類ではあるのだが)


詳しい経緯は覚えていないのだが、「平和、テロとの戦争」についての質問の答えの中では、「各国と国連はもっと仲良くしないとだめですよ〜」と。仲悪いのは、当然といえば当然だと思うんですけど。なぜなら、国連は形骸化してしまった組織。すなわち、皆が言いたいほうだいやり放題の学級崩壊したクラスみたいなもの。国家間で討議し、解決する為の国際機関として役に立たないのだから、国連を頼ったって問題解決をすることができない。そうすると、必然的に国連を通さないで国家単独、または同盟国同士で行動をするようになる。アメリカはこの事実を充分に認識しているから、テロとの戦いを(半ば)独断で断行しているのではないか?

最後に(最前席に座っていた)Perry氏に向かって「アメリカも、(国連の)分担金をちゃんと払ってくださいよ〜」と。すんません、それはちぃとnaiveでないか。国連は(YesかNoで答えれば)機能しない組織なのである。企業で言えば、売り上げが上がらない、潰れかけた会社だ。そんな会社に投資をしたいだろうか。賢い投資家ならそんなことはしないだろう。という投資効果という面からすると無駄な投資をするのは考えものだし、加えて「日本はカネをちゃんと、それも莫大な金額を納めてるんですよ、アメリカも見習ってよね(お前も同じようにカネだせよ)」というニュアンスが込められていた気がした。「カネだけだせばええ」、って問題じゃないでしょ。

けどねぇ、アメリカはなんだかんだ言って何かしら「動いている」、「行動をしている」(リーダーシップを発揮している)。それに比べて、日本は「札束を差し出すだけ出して、あとは呑気に家で寝ている」。湾岸戦争時に日本は90億ドルを拠出した。しかしながら、諸外国からは全く評価されなかった *1。その多額の援助金を拠出したのは、どこのどなただったのか? なぜ評価をされなかったのか、お考えにならないのか?最後にはいくつかの質問に対して軽く逆ギレしていたし.....


日本国民は実は不幸なのかもしれない。ビジョンもよくわからない、不明虜な活動/発言を繰り返すリーダー達に率いられたこの国は、まるで荒波をただよう幽霊船に乗せられているみたいだ。20世紀はそれでもなんとか転覆しないで浮かんでいられた。だが、これからはそううまくはいかないのではなかろうか。

このような自分の中の政治に対する偏見(単に金があるだけで偉ぶっている様子、加えて諸外国の批判を集めている)のせいか、ゴルフ場で初対面の人と一緒に回ったりするときなんかに「どこの出身?」と聞かれて「日本」と答えるだけのことに、何かためらってしまうものがある。けど、(意外に)反応としては、「日本かぁ、いいねぇー」と何かしら日本に対する好印象を(相手が)もっているなぁ、と思わせる反応が返ってくることが多いのだが。

自分としては、日本という国が大好きだし、「やっぱり日本人に生まれてよかったなー」と常々実感しているし *2、日本のユニーク*3な文化や国土の美しさ、技術力の高さなんかは堂々と世界に誇ることができると思う。

だからこそ、
私は日本人である.
と誇りをもって言えるような国に変えていけたらいいな、と所望している。
これは、30代、20代(果ては10代)の世代の課題なのかもしれない。
(根本的には(未だに続く)偏差値至上主義教育を撤廃することが先決か?)

*1:多国籍軍の兵器(ミサイルだったかな)に日本企業が設計/製造した高精度の部品が採用され、多大な戦績をあげ早期に停戦に持ち込めたことに貢献したことは、陰ながらペンタゴンの高い評価を受けたらしい

*2:US Citizienshipがないと、航空宇宙産業での就職は絶望的という事実に直面するときは別として.

*3:他に例がない, 世界に1つしかない貴重なものという意味.